可愛いあいつはモンブラン(前編)
2011-02-21


ゴロゴロ、ピッシャーン。
 六時間目の授業が終わると突然に雷雨が襲ってきた。
 掃除の割り当ての中庭に出ようとしていた俺達は、慌てて渡り廊下の屋根の下に避難して雨が通り過ぎるのを待っている。
 雨煙のため朧げに見える遠くのビルの傍らに、次々と雷が落ちていく。
 春雷――それはまるで昨日の部長の怒りと同じだった。
『おい勉、新歓用の作品を全然書いてないじゃないのよ!』
 我が『文部』は、文を読み、文を書き、文を愛する部活だ。四月になって入学してきた可愛い一年生を勧誘するために、魅力的な作品を書けと部長に言われている。
 ――それにしても、先週は季節はずれの吹雪だったのに今日は雷雨かよ。
 雨が通り過ぎるのを待ちながら、先週はこの中庭が一瞬であったが一面雪景色になったことを俺は思い出していた。
 ――まるで女心だな。
 先週の部長の心もまた吹雪だった。なぜなら先週は、新入生が一人も見学に来なかったからだ。イライラした部長は部員に向かって負の感情を爆発させ、一層の作品作りを命令した。
 ――そうだ、このネタで俳句を作ってやろう。
 俺は竹箒を柱に立てかけると腕を組んで雨空を見上げる。するとむくむくとアイディアが浮かんできた。
「たゆたうの女心と春の空」
 これで新入生が勧誘できるとはとても思えないが、とりあえずノルマは達成だ。俺がほっと安堵すると、先生が中庭に顔を出して今日の掃除の中止を告げた。

 雷雨のために俺達のクラスのホームルームは他のクラスよりもかなり遅くなってしまった。その最中、部長からメールが届く。
『勉、遅い! 何やってんのよ?』
 俺はケータイを机の中に隠しながら返事を書く。
『まだHRなんだけど』
 するとすぐに部長から返事が届く。
『きたよ、きたよ、新入生。なんかすごいのきた!』
 マジ? と思いながら俺はケータイの上の指を動かす。
『すぐ行くから』
 ホームルームが終わると、俺は直ちに部室に向かった。

 文部の部室に着くと、中から聞きなれない黄色い声が聞こえる。どうやら新入生は女の子のようだ。
 俺が勢い良くドアを開けると、部長の前に座っていたその黄色い声の主がびっくりしたように立ち上がりこちらを振り向いた。
 背は小柄だが、染めたのか地毛なのか分からない黄色の長い髪をツインテールにまとめていた。スカートもかなり短い。これが新入生なのだろうか。なんというか、見た目だけでもすごいヤツだ。
「遅かったな、勉」
 部長が俺に声をかける。すると、その黄色いツインテールはペコリと頭を下げた。
「はじめまして。庭野玉子といいます。よろしくお願いします!」
 ――庭野玉子? まさかこれが本名ってのは冗談だろ?
 待てよ、ここは文を書く部活じゃないか。新入生と言えどもペンネームを用意していても不思議ではない。
「はじめまして。玉子さん……というのはペンネーム?」
「いえ、本名です。玉子だから、中学校の頃は卵(ラン)って呼ばれてましたっ!」
 このテンションの高さも只者ではない。すごいのがきた、という部長のメールは本当だった。
 ――文部(もんぶ)の卵(ラン)かよ。
 一瞬、俺はオヤジ的なダジャレを言いそうになったが、慌ててその言葉を飲み込んだ。こんな新入生に初日からバカにされるのは御免だ。
「それで、ランちゃん、でいいのかな、今までどんな作品を書いていたの?」
 俺は椅子に座りながら玉子に質問する。
「ミステリーなんです」
 ほう、この風貌とは間逆のジャンルとは興味深い。
「どんなミステリー? 本格派? それともラノベ風とか」
「数字遊びが好きらしいよ。ラン、悪いがもう一度勉にも説明してやってくれ」
 部長が言うと、玉子は目を輝かせながら俺の方を向いた。どうやら"数字遊び"という言葉に反応したようだ。
「今書いている話はですね、『一吾一絵』という双子が出てくるんです」
「一期一会?」

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