法螺と君との間には
2011-05-13


「君はなぜ、オオカミが出たなんて言ったんだ?」
「……」
「黙ってないで何か言いなさいよ」
「……」
「じゃあ、まず名前を聞かせてもらおうか」
「……」
「君、言葉がわからないの?」
「ちょっと待て。きっとこの少年は名前を知られたくないんだ」
「知られちゃマズイのね」
「そうだ。両親にバレるとこっぴどく叱られるからな」
「違ぇよ」
「なんだ、しゃべれるじゃないの。ははーん、両親に叱られてその憂さ晴らしでやったとか?」
「だから、違ぇって言ってんだろ」
「いや、学校で女の子にフラれたんだよ。その腹いせに違いない」
「違ぇよ。何の権利があって俺のプライベートに首突っ込むんだよ? というか何で俺はオオカミに尋問されなきゃならねえんだ?」
「違うぞ、少年」
「そうよ。私達、オオカミに似てるけどコヨーテなの」
「どっちも同じじゃねえか。どうせ羊を襲うんだろ?」
「それも違う。食べるだけだ」
「そうよ、君達も食べるでしょ?」
「ほらみろ。おーい、オオカミが出たぞ! みんな逃げろ!」
「こら、待て。名前を間違えるな!」
「ああ、行っちゃった。私達もまだマイナーね」
「いや、あの少年が『コヨーテが出たぞ』って叫んでくれれば一気に……」



500文字の心臓 第104回「法螺と君との間には」投稿作品
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