「ね、ねえ、そこの、ロボットさん……」
ボクが振り向くと、瀕死の少女が横たわっていた。
「ダイジョウブ? キュウキュウシャ、ヨビマスカ?」
「病院は、いいの。もう私、ダメだから……」
少女は弱々しくボクに手を差し伸べる。
「お願い、握って……」
SZ300。それが工業用ロボットであるボクに付けられた名前。
指の関節が逆側にも曲がるため、L側でもR側でも物を優しく握ることができる。
「ありがとう……」
ボクがL側で少女の手を握ると、彼女は安堵の表情を見せた。
「アタタカイ」
手に設置された温度センサーが値の上昇を感知した瞬間、少女は全身から青白い光を放つ。
「ばいばい、優しいロボットさん……」
轟音と共に、少女の体は消滅した。
「おい、SZ300! どうしてL側で握らないんだ!?」
今日も親方の怒鳴り声が工場に響く。
あの日からボクは、L側で物を握ったことはない。
「ゴメンナサイ。チョウシガ、ワルクテ」
「このポンコツが。修理する金もねえし、どうすっかな……」
親方がその場を去ると、ボクはそっとL側に指を丸める。そうすると、あの時の少女のぬくもりを感じられるような気がした。
(追記8/13:
haruさんに朗読していただきました)
500文字の心臓 第115回「その掌には」投稿作品
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