すいている
2012-11-04


あーあ、行っちゃった……。
 朝の八時三分。次の電車だと、駅から走らないと学校に遅刻しちゃう。
 秋風吹く季節になったとはいえ、日差しはまだ暑い。これじゃあ、学校に着く頃にブラウスが汗まみれになるのは確定。今日は夏服を着てきちゃったから、ブラが透けたらどうしよう。
 なんで私、乗り過ごしちゃったんだろう……。
 下を向いてうだうだしていると次の電車がやってきた。
 へぇ、一本後の電車って意外と混んでないのね。反対側のシートに座る人が見える〓〓って、えっ、彼ってこの電車に乗ってるの?
 隣のクラスの学級委員長で和紙部のキャプテン。
 シートに深く腰掛け、本を読んでいる。
 私はそろそろと近づき、彼の前のつり革につかまった。
 なんていう本を読んでいるんだろう……?
 あっ、目が合っちゃった。うわっ、胸がドキドキしてる。
 電車が減速し始めると彼は静かに本を閉じた。
 チラリと見えたそのタイトルは、『SWEET TAIL』。
 さあ、学校までのダッシュ競争は、抜かされてもちゃんとついていかなくちゃ。



500文字の心臓 第117回「すいている」投稿作品
[投稿作品]
[超短編]
[500文字の心臓]

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