お目当てのローカル線に乗り換えるため山間の駅で降りる。一日五往復しか走らない、炭鉱のある街へと続く路線。その線路の直上には、一本の電線が線路に沿って延びていた。
「ほお、あんたも珍しいかね? その電線が」
「ええ、見るのは初めてです。僕は都会育ちですから」
こんな風景、もう都会では見ることはできない。
二〇五×年。電磁波に対して極端に耐性の低い赤ちゃんが生まれはじめた。
子供達の命を守るため、無線方式の通信インフラは廃止。電磁波を垂れ流す電車も、都会からだんだんと姿を消していった。
電車の運行が許されたのは、電磁波密度の低い田舎の路線のみ。しかし全廃は時間の問題だった。
「ここの電車も、来年には廃止になるんですよね?」
「そうみたいじゃの」
ゴトンゴトンと駅に近づいて来る電車。それと共に胸がなんだか苦しくなってくる。
「どうしたんかね? 顔が真っ青じゃぞ」
「だ、大丈夫です……」
必死に平静を装う。だってずっと待ち望んでいた電車体験だから。こんな僕達のために廃止されるなんて本当に残念だから。
小さな電車はゆっくりと出発する。シートに深く腰かけた僕は、意識を失うまでの間、揺れる景色を瞳に焼き付けていた。
500文字の心臓 第122回「最終電車」投稿作品
セコメントをする