天国の耳
2014-06-14


今日の新入りの一人は、耳が無かった。
「おい、お前。耳はどうしたんだよ!?」
「……」
 古株の一人が声を掛けたが反応がない。耳が無いから聞こえていないのだろう。
 すると近くにいた別の新入りが声を返す。
「コイツに何を言っても無駄ですよ。耳だけが天国に行っちまったんです」
「耳だけが?」
「そうなんです。コイツは生前、耳たぶが異様に長くて、近所のお年寄りから有り難られてたんです」
「お前たちはダチか? なんでココに来ちまったんだ?」
「オレオレ詐欺でしくじっちまったんですよ」
 地獄に来るくらいだから相当稼いだに違いない。
「コイツはすごく聞き上手で、電話に出ると長くてしょうがなかったんです。五時間って時もありました。でも不思議なことに、長電話の時ほど稼ぎが良かったんですよ」
 すると耳のない新入りは急にニヤニヤとし始めた。
「なんだよ、コイツ。幸せそうな顔をしてるぜ」
「天国では心地の良い音が溢れているらしいんです」
 うっとりと目を閉じる新入りの前で、男が二人腕を組む。
「どんな音がしてるんだろうな」
「そうですね、俺も聞いてみたいです……」
 果てしなく広がる真っ暗な地獄の天井を見上げて、二人は目を細めるのだった。



500文字の心臓 第131回「天国の耳」投稿作品
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