2014-09-15
俺と女の子の視線が激しくスパークする。
数秒は続いたと思われる意地と意地のぶつかり合い――は、意外な終止符を打つ。
ポンっという音と共に、俺と女の子との間の空間に何かが現れたのだ。
えっ、えっ!? な、なに? これ?
その空間に浮かんでいたのは、一センチくらいの大きさの赤くとぐろを巻いた物体。
赤い……ウ、ウンチぃ!?
それはまさしく、マンガに出て来るような小さな小さなウンチだった。しかも目の前でプカプカと宙に浮いている。 「ちょっと、何、ぼおっとしてんの?」
女の子の声で、はっと我に戻る。
ていうか、彼女はこの物体の出現に気付いていないのか?
「早く謝ってよ。私、急いでるんだから!」
「えっ? あぁ……」
全く気付いていない彼女の様子に、俺は思わず言葉を詰まらせる。
その態度に呆れたのか、女の子はいそいそと立ち上がり、スカートの汚れを払い始めた。
「なによ、心ここに非ずって態度で誤魔化そうっていうの? 号泣するよりマシだけど男らしくないわね。ふん、じゃあね」
そんな捨て台詞を残し、女の子は駅のホームに向かって走り去って行った。
ていうか、何? このウンチ?
女の子のことなんてどうでも良くなってしまった。
だって、そのウンチは艶々していて、なぜだかとても魅力的に見えたから。
いつまでも、目の前の空間にプカプカ漂っている赤い不思議な物体。ふっと息を吹きかけても、どこかに飛んで行く気配はない。本物のウンチみたいに柔らかそうで、ちょっぴり唐辛子系の匂いが漂ってくる。
思いっきり興味を持った俺は、指先で突いてみようと恐る恐る手を延ばす。その時――
「ダメでケル。人間は、触っちゃいケルないです」
突然掛けられた可愛い声に俺は振り向く。
すると、これまた空間にプカプカと浮く不思議な存在があった。それは、アニメフィギュアを彷彿とさせる体長二十センチくらいの小さな美少女。
「あなた、見えケルね? あの怒メルトが、見えケルのね?」
運命的な――妖精トケルとの出会いだった。
おおおおお、なんだこれはっ!?
俺は激しく神に感謝する。
さっきは変なトラブルで神を恨んでしまったが、素直に謝罪しよう。
今、俺の目の前に現れた美少女こそが、真の神の意志に違いない。
パタパタと背中の小さな羽をはばたかせながら宙に浮く儚く美しい存在。
フリルのたくさん付いた白を基調としたミニのワンピースに身を包み、ふわふわの長い金髪を風になびかせている。お腹には、かなり大きめのピンクのウエストポーチを付けていた。
瞳は二重で大きく、それでいて目元はキリっと引き締まった丹精な顔立ち。その小さな唇が、俺に向かって言葉を発する。
「おい、お前!」
お前?
こんな可愛い美少女が、いたいけな、いや痛い目に遭ったばかりの男子高校生に向かってそんなことを言うわけがない。
きっと空耳だろう。
「ボクがしゃべってケルよ。無視しないのケル!」
ケル? それって何語?
とその時、ドンと俺の肩に何かがぶつかった。
「邪魔だよ!」
先を急ぐサラリーマンの足が、地べたに座ったままの俺に当たったのだ。そして、あろうことか、そのサラリーマンの膝が宙に浮く美少女めがけて――
「あああああああっっっッ!」
俺が大声を出したものだから、サラリーマンはビクッと立ち止まる。その脚を少女はすっとすり抜けた。
「なんだよ、ビックリさせやがって。なんか文句でもあんの?」
「いえ、何でもありません。スイマセンです」
「ちっ……」
舌打ちをしながら先を急ぐサラリーマン。彼が通ったあとに、少女は相変わらず小さな羽をはばたかせていた。
「大丈夫ケルよ。人間はボクに触ることはでケルないから」
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