井戸の中を覗いたら中から声が聞こえてきた。
「出てって」
いやいや、俺は中になんて入ってないし、入るつもりもない。
不思議に思っていると、真っ暗な井戸の底から異様な熱気が込み上げて来る。
俺は慌てて後ずさった。なにか得体の知れないものが出てくるような気がしたのだ。
「出てって!」
引き続き声がする。通告を受けているのは俺ではなく、まだ地下に留まっている何かのようだ。
その正体は何? 幽霊? それとも妖怪?
そんな恐ろしいものが出てきたとしても、ちらっと見てみたい衝動に俺は駆られていた。
「出てってよ!」
繰り返すその退出通告は、予想外に太くて低い声だったから。
(追記11/17:
haruさんに朗読していただきました)
500文字の心臓 第158回「出てって」投稿作品
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