「あっ!」
小学生の娘が旅行先で叫んだ。
「子供部屋のカーテン、開けたままだ……」
それは南向きの窓だった。
「なにか困ることでもあるのか?」
すると娘は泣き出す。
「ごめんなさいパパ。金魚鉢を置いたままなの」
金魚鉢って窓際に!?
「それって去年買ったやつか?」
「うん」
それはマズい。あれは典型的な球形だった。
「頼む、明日の天気を調べてくれ。自宅周辺の」
俺は血相を変え妻を向く。
「ちょっと待ってて」
もし晴れだったらヤバい。金魚鉢レンズで自宅が火事になる。
「今日は雨だけど、明日の降水確率は五十パーセントだって」
それって、まるでシュレディンガーの猫じゃないか。
「緑ちゃん、暑くて死んじゃうよ」
「だよな、マズいよな」
泣きじゃくる娘をなだめながら考える。
――旅行を中止するか否か?
すると妻が娘に言った。
「緑ちゃんなら平気よ。甲羅干ししてたりね」
へっ? それって……
「緑ちゃんって亀?」
「ママが夏祭りですくったの忘れたの?」
そうだっけ? でも亀ならレンズにならないなと俺は胸をなでおろす。
しかし娘はお冠。
「パパもママも大っ嫌い。私、絶対帰る!」
明日の猫はやはり予測不能だった。
500文字の心臓 第164回「明日の猫へ」投稿作品
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