2019-08-29
世界は光に溢れていた。
笑顔がまぶしい双子の女の子が今、僕の目の前にいる。
――長い髪のフウと、最近髪を切ったヨキ。
彼女たちが同時に歌を口ずさむと、いつも不思議なことが起こるんだ。
君と集める ヒルクウキ
ロクソル山の ナクルに詰めて
ヤミノクモの 来る前に
二人は歌いだした。僕を見つめながら、村に伝わる古い歌を。村の子供なら誰でも歌える、穏やかで優しい歌。
ハイトーンは軽やかに、ロングトーンは力強く。二人の視線と歌声に包まれると、まるで別世界に迷い込んだような錯覚を覚える。
でも、ゴメンね。僕は同時に二人を見つめることができない。だって僕は一人だから。
困った僕は、妹のヨキのさらさらの髪を見つめていた。風になびく切ったばかりのブロンズの髪。それがとても綺麗だったから。
なのに……
「なによ、クガンったら。姉さんのことばかり見つめて」
歌い終わったヨキが僕のことを睨みつける。
まただ。また不思議なことが起きた。
僕はずっと、ヨキのことを見ていたんだよ。
「あら。クガンはお姉さんが好きなのよ。落ち着いてるから」
フウが僕をちらりと見て顔を赤らめる。まるで僕がずっとフウのことを見つめていたかのように。
「お姉さんって言ったって、たった数時間の違いでしょ!?」
膨らませた頬を、さらに大きくするヨキ。
「じゃあ、私の長い髪が魅力的だったんじゃない? あんた、慌てて切っちゃうからいけないのよ」
「だって、だって、クガンが言ったんだもん。髪が短い女の子も魅力的だって」
そう、だから僕はずっとヨキのことを見てたんだ。
髪を切ったヨキはとっても魅力的だったから。
不思議なことが起きるのは、決まって二人が同時に歌いだす時。
そんなことあるかって思うだろ?
でも、本当に同時に歌いだしちゃうんだ。
双子だから?
たぶんそう。双子だから。
だって容姿も本当にそっくりなんだよ。一卵性双生児だし。
髪を切る前のヨキは、本当にフウにそっくりだった。後ろ姿だけなら、幼馴染の僕だって見分けがつかないほどに。
「もう、いいわ。クガンなんて知らないんだから。罰よ、姉さんばかり見ていた罰!」
ぼおっとしていた僕は、ヨキの言葉ではっとする。
罰? それってなんだよ。
「今日のヒルクウキ集め、いつもの倍やってよね!」
いつもの倍? いつもの倍って、倍やるのか?
「そりゃないよ」
「そうよ。ヨキは勝手ね」
僕は、ヨキをずっと見てたんだから。
ほら、フウだって反対してるじゃないか。
「姉さんは黙ってて。じゃあ、こういうのはどう? 私の担当のラトラ通りとレトレ通りをやってちょうだい? そしたら許したげる」
むむむむ。ラトラ通りとレトレ通り?
僕の担当は、リトリ通りとロトロ通りだから……それってやっぱり倍ってことじゃないか!?
納得がいかないけど、ヨキの怒りは簡単には収まりそうもない。
腹をくくった僕は、腕組みするヨキを向く。
「仕方がないなぁ……」
「ホント!? だからクガン大好き!」
とたんに機嫌を直して、ヨキは僕に抱きついてくる。
悲しいことに、僕はこの笑顔に本当に弱いんだ。短く切った髪が僕の首筋に当たってくすぐったい。
「まったくクガンはヨキに甘いんだから。じゃあね、二人とも。私は自分の当番に行ってくるからね……」
フウは呆れたような言葉を残して、通りの向こうに消えて行った。
一方のヨキは、僕の手を握ってなんだか嬉しそう。
「じゃあ、私の分をやってくれるお礼に、最初だけ手伝ってあげる。どっちに行く? ラトラ通り? レトレ通り?」
「どっちも」
「なによ、仕方ないわね」
なんだよ、どっちも手伝ってくれるのかよ!
だったら罰なんて言わずに両方やってくれよ〜
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