窓の外に目を向けると、一面の星空が広がっていた。
現在、二〇二〇年十二月三十一日、つまり大晦日。
時刻は午後二時五十分。ただし世界標準時だけど。
「タロウ、ソロソロ、ジャナイカ?」
クルーのジョージが気を遣って休憩を促してくれた。
「ありがとう。ちょっと電話してくる」
私は隣の棟に移動し、自宅に電話を掛ける。
「もしもし」
すると可愛らしい声が私の耳に飛び込んでくる。
「パパ! 元気? そろそろ新年になるよ!」
そう、日本ではもうすぐ二〇二一年を迎えようとしているのだ。
「おいおいナナ。まだ起きてるのか? 小学生は寝てなくちゃいけない時間だろ?」
「だって、パパから電話が掛かってくると思って……」
「そうよ、ナナだって頑張って起きてたんだから」
「わかった、わかった、ごめんな、ナナ。ていうか、ほら、もう新年になるよ」
「ホントだ。三、二、一、ゼロ、あけまして、おめでとう!」
「おめでとう! 今年もよろしくね」
「ナナもママも愛してる。宇宙からみんなの健康を祈ってるよ!」
ここは国際宇宙ステーション。
だから午後三時なのに星空が見える。地球と反対側には、昼でも夜でも絶えず星が輝いている。
そして日本では、今さっき新しい年を迎えたばかりだ。
「タロウ、ハチジニナルト、オモシロイモノ、ミレルヨ!」
およそ九十分で地球を一周するステーション。
ちょうど五時間後にドバイ上空を通過するという。
日本との時差は五時間。つまり、その時ドバイでは新年を迎える。
「何が見れるんですか?」
「ソレハ、オタノシミ、ダヨ」
やがてその時刻になると他のクルーも集まって来た。
みんなが地球側の窓にかじり付く。
世界標準時、午後八時。
地表でキラキラと光が輝き始めた。
「そっか、カウントダウン花火か」
日本にはそういう風習があまりないから、すっかり失念していた。
例年シンガポールなど各地で見られるそうだが、新型コロナの影響でほとんど中止になってしまった。
今、地上では、多くの人々が希望の眼差しであの花火を見上げていることだろう。
キラキラと光る地上の花火。それを眺めながら、二〇二一年が人類が新型コロナに打ち勝つ年になりますようにと心から祈るのであった。
ミチル企画 2020−21冬企画
テーマ:『天に星』『地に花』『人に愛』
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