喜怒哀楽兄弟
2022-08-05


僕の兄弟は喜怒哀楽だ。
 だって妹は喜び、姉さんは怒り、弟は哀しみ、僕は楽しんでいるんだから。

 それはある日のこと、いつものように、家族が食卓を囲んで夕食を食べている時のこと。僕にはそれが日常であり幸せであったのだけれど……。
 ――そんな平和な日常に突然の嵐が吹き荒れることになるなんて思ってもみなかったんだ――
「ねえお兄ちゃん」
「ん? なんだい?」
 僕が食事をしていると妹であるアコ(中学2年生)から声をかけられた。ちなみに僕の名前はアキ(高校1年生)で、弟のソウタロウ(中学3年生)は僕を兄貴と呼んでくる。
「あのね……」
「どうした? 遠慮しないでなんでも言ってくれよ」
 普段元気いっぱいの妹が今日に限って珍しく何か言いずらそうにしている。これはもしや……!と心の中でちょっとだけ期待しつつ妹の言葉を待つ。
「えっとね、お兄ちゃんって、今好きな人っているのかなぁと思って……」
 妹からの質問はなんとも予想通りのものではあったのだが、いざ実際に聞かれてみると困ってしまうもので……。
 妹の質問に対して少し考えてみる。
 うーん、特にいないんだけど……そうだなあ……今は思い浮かばないけどいつかそういう女性が現れる日が来るかもしれないし……。よしっ!
「うん。今のところはいないけど、そのうち現れるんじゃないかな?」
 とりあえず当たり障りのない回答をしてみた。しかし妹からは意外な言葉が返ってきたのだ。
「そっか。じゃあお兄ちゃんはまだ彼女がいない歴イコール年齢というわけだね!!」
 ぐぬぬ……。
 確かに妹に言われたとおりなのだがこうストレートに言われてしまうとなんか恥ずかしいな。
 僕は少し頬を赤くしながら「まあそういうことになるかな……」と答えた。
 すると今度は弟が口を挟んできた。
「でも兄貴なら大丈夫だと思うぜ。俺が女だったとしてもきっと好きになるだろうからな!」
 おいこら待てコラ!! 勝手に何言ってんだよ!?
 弟からの予期せぬ一言を聞いて僕はさらに顔が熱くなる。
 そしてその様子を見てなのか、姉まで参戦してきた。
「ふふん! 甘いわねあんたら! 私なんかはもうすでにいい人がいてラブラブ状態だからね!!」
 おいこら!! まだその件については何も話してないだろ!!!
「ほぉ〜さすが姉さんはモテるねぇ! でもそれって一体誰だよ?」
 お前まで話を合わせなくていいから!!!
 それに僕だって一応高校生だし恋人くらいいてもおかしくはないはずだろ!? …………おかしいよね?
 僕の内心のツッコミなど全く気にすることなく話は続いていく。しかもその内容はどんどん過激なものになってきていた。まさかここであんな発言が出てくるとは思わなかったのだ。
「へぇーお兄ちゃん彼女いないのかぁ……よかった! これで私の計画が実行できるよ♪」
 えっ……!? どういうことだ!?
 僕の思考は一瞬フリーズする。
 するとすかさず妹のフォローが入った。
「あはは、ごめんなさいお兄ちゃん、実はお姉ちゃんはずっと前から彼氏がいるんです。お付き合いを始めたばかりなので今は秘密にしておいて下さいね。でもいずれみんなにも紹介しようと思っているんですよ?」
 なるほどそういうことだったのか……。
 ということはつまり妹は自分のために僕のことを訊いてきたということになるんだろう。
 なんてできた子なんだ……と感心してしまう反面少し寂しい気持ちもあった。妹にはすでにそんな相手がいたのかと思うと自分が情けなくも感じてしまったのだ。
 でも妹が幸せならそれでも構わないかと思い直した時、再び弟から爆弾が投下されたのである。それも特大級のやつだ。
「姉さんの恋人? どんな人? ちょっと写真とか見せてくれよ」
「あっ……そうですね、じゃあその人にお願いします」
 おいこら待て!!!
 何を勝手に決めてるんだ!?

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