ため息
2015-12-31


「おい悠斗、今日はどこに行く?」
「なんだ、正樹か。どこでもいいけど。」
「じゃあ、ゲーセン行こうぜ!」
「ああ、ゲーセンね。」
「なんだよ、行きたくないのかよ?」
「そんなこと言ってないし。」
「なんかその喋り方、行きたくないって感じがするんだよな」
「ふーん、どこが。」
「それだよ、それ! お前、語尾に小さくため息入れてるだろ?」
「えっ? バレた?。」
「だから、ため息入れんなって言ってんだよ、疑問符の後に変だろ?」
「おおっ!。」
「意味わかんないし」
「そう?〇」
「ため息、大きくしてどうすんだよ」
「気にすんなって。きっと俺だけじゃないと思うぜ。」
「いや、お前だけだよ、そんな器用なことができるのは」
「そうかな?。 百作品あったら三作品くらいはやってると思うけど。」
「作品ってなんだよ? 『百人いたら三人』の間違いじゃないのかよ、お前、作品だったのかよ」
「正樹こそ。もっと。力を。抜いた方が。いいんじゃないの?。」
「いやいや、ため息つき過ぎだっつーの」
「逆に全然ため息ついてないじゃん。正樹は。」
「だってよく言うだろ? 『ため息つくと幸せが逃げる』って、それ、一応気にしてんだよ」
「えー。俺が知ってるのは『ため息つけばそれで済む』だけど?。」
「なに、それ?」
「母が。教えてくれた。」
「母だって? なに急にかしこまってんの? いつも、『かーちゃん』って呼んでるお前がさ」
「♪ささやーかな。 ♪ぼーくの。 ♪母の。じ。ん。せ。い。」
「歌うな! 歌ったら、たとえ結果が良くても掲載されないだろ?」
「大丈夫。微妙に外してるし。それに正樹だって『掲載』とか変なこと言ってんじゃん。」
「ていうか、よくそんな古い歌、知ってんな?」
「正樹だって古いってよく知ってんな。」
「もうやめようぜ、こんな不毛な会話、ゲーセン行くかって話だっただろ?」
「じゃあ行かない。」
「やっぱ、行きたくないんじゃねえかよ、だったら最初からそう言えよ」
「だって俺達。受験生だろ?。」
「そうだけど?」
「センター試験までもう一ヶ月切ってんだよ。」
「…………」
「もっと素直になれよ。」
「素直って?」
「俺みたいにさ。」
「こ、こうか?。」
「そうだよ。やればできるじゃん。」
「おお!。」
「いいぞ。その調子!。」
「なんか。受験生って感じがしてきた。」
「だろ?。『ため息つけばそれで済む』だよ!。どんどんつこうぜ。」
「ああ。『ため息つけばそれで済む』だな。」
「受験なんて糞喰らえだ!。」
「推薦組は爆発しろ!。」
「雪不足は受験生には嬉しいぞ。」
「三月になったら遊びまくってやる。」
「今も遊んでるけどな。」
「ちょ、ちょっと。余計なこと言うなよ。ところでさ。お前どっちだ?。」



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