三階建て
2021-05-28


私は『アスリートのお宅拝見』という番組のキャスター。都内のある場所に来ている。
「さて、今日のゲストのスポーツは何でしょう?」
 実は私も知らされていない。建物を見て予想する様子も番組の一部なんだそうだ。
「この家は……」
 多くのアスリートの自宅の中にはトレーニング室があり、そこで種目も予想できる。が、今回は外からも種目が丸わかりだった。
「壁に沢山のホールドが付いています!」
 そう、三階建てのコンクリートの外壁には壁を登るためのホールドが無数に付けられていたのだ。
 そこでアスリート本人が登場。案の定スポーツクライミングのオリンピック代表、野口中選手だった。
「野口中選手はこの壁を毎日登られているのでしょうか?」
「もちろんです。そのための三階建てですから」
 私は建物を見上げる。
 屋上までかなりあるしオーバーハングもある。これを毎日登ったらかなりの練習になるだろう。
「それでは中も拝見させていただいてよろしいでしょうか?」
「もちろんいいですよ。ではこれを付けて下さい」
 野口中選手は私にハーネスを差し出した。
「といいますと?」
 彼女はニコリと笑うと私に言ったのだ。
「玄関は屋上にありますので」



500文字の心臓 第181回「三階建て」投稿作品
[投稿作品]
[超短編]
[500文字の心臓]

コメント(全0件)
コメントをする


記事を書く
powered by ASAHIネット