2022-01-19
湊の場合1
「やった! やっと見つけた!!」
湊(みなと)は嬉しさのあまり部屋の中でコントローラーを投げ上げた。
ゲーム画面には、彼が操る女性アバターが裸の状態で出現したからだ。
――白亜大戦。
白亜紀に登場するような巨大生物を狩るハンティングアクションゲーム。
発売初日に購入した湊は、大学の勉強もそっちのけでプレイにいそしんできた。その甲斐があったと、頭の中を満足感で一杯にする。と同時に、心地よい疲労感がベッドの上に大の字になった彼の体をじわりじわりと包み込み始めた。
このまま眠ってしまっても――
「いいわけない! 早速、造るぞ!!」
がばっと起き上がった湊は、ベッド脇に落ちたコントローラーに手を伸ばす。
彼は、あるものを手に入れたかった。
それは、普通にゲームをしているだけでは決して手に入らないもの。
いや、正しくは手に入れることはできる。似たようなものであれば。
――DLC(ダウンロードコンテンツ)。
追加料金を支払えば、特別なアイテムをダウンロードできるシステムだ。いわば課金システムなのだが、それに投資することによって湊が欲するアイテム自体は入手可能だった。
でもそれではダメなのだ。
課金システムで得られるものは、そのリストが公開されている。つまり、いくら貢いだのかがあからさまになってしまう。
そんなものではない、彼が真に手に入れたいものは。
――世界で自分だけが有するもの。
それを得るためだけに、何時間いや何ヶ月という労力を費やしてきた。
「森、木々の葉、木漏れ日、清らかな水、マイナスイオン、そして岩石……」
まずは女性アバターが出現した場所を注意深く観察する。その場で手に入れることができる素材も重要だからだ。
――森の中の清らかな水の流れ、岩石が露出する渓流と水を湛えた淵。
つまり光、水、岩石、植物といった素材はいくらでも現地調達できるということだ。
次に手持ちのアイテムと、会得した魔法のリストを確認する。
「必要な試薬もある、そして魔法も会得済み、と……」
すべてを確認した湊は、すうっと深く深呼吸した。
いよいよだ。ついに長く待ち焦がれていた夢が実現するのだ。
メニューから水の魔法を選択し、必要となる素材と試薬を調合ボックスの中に入れる。そしてコントローラーのOKボタンに指を乗せた。
「ギフト、アクア!」
指に力を入れると同時に、女性アバターと湊の声がユニゾンで部屋にこだまする。
すると淵の水面がわずかに波立ち、白い湯気のようなものが立ち上がった。その気体は次第に渦を形成し、裸の女性アバターがその白き渦に飲み込まれていく。渦の動きが止まり、次第に空気が晴れてくると念願のものがそこに出現していた。
「やった! やったぞ!! ついに俺はやったんだ!!!」
それは――水色と白の縞々ぱんつだった。
美音の場合1
「なによ、もう。可愛くないわね!」
美音(みと)は不満をつのらせていた。
「せっかく可愛い装備を造ったっていうのに……」
彼女の不満は、あるものを自由に造れないことに起因しているのである。
確かに白亜大戦は面白い。
恐竜のような巨大生物を倒す時はドキドキするし、広大なマップを探検するのはワクワクする。
アクションとアドベンチャー。そのバランスがとても良いのだ。
時には仲間と共闘し、一緒に巨大生物を倒した達成感に酔いしれ、プレイヤー同士の友情が芽生えることだってある。
「でもね、装備がね……」
美音にとっては装備だって重要な要素だ。強さという意味ではなく、ビジュアル的にだが。
白亜大戦で作成できる装備は、基本的にはマップ内で取得した素材と魔法の組み合わせで構成される。
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