2022-09-01
明日は待ちに待った遠足です。
だから、しっかりと眠らなくてはなりません。
でも……それなのに……ちっとも眠くならないのです。
夜の八時にはおふとんの中に入ったというのに……。
目がぱっちりしてしまって、明日の楽しいことばかり考えてしまいます。
行き先は、地元のアニマルパークです。
小学四年生は、いつもそこに行くことになっているんだそうです。
パパとママと何回も行っているところだけど、明日は特別。だって学校の友だちもいっしょなんだから。
ああ、もう! なんで眠くならないの!?
その時です。
小さなささやきが聞こえたのは。
「いいこと、教えてあげよっか?」
暗やみの中で。
パタパタという変な音とともに。
だれ?
声がするなんてありえません。
だって子供部屋には、私しかいないのだから。
ビックリした私は上半身を起こし、暗い部屋を見回します。
すると、羽ばたきながら宙に浮いている存在が私の目の前に近づいて来ました。
ちょ、ちょっと、これって大きな虫!?
こわくなって逃げようとすると、その存在から声が聞こえたのでした。
「みらくちゃん。こんばんわ!」
な、なんで私の名前を知ってるの?
私が動きを止めると、その存在は私の顔をのぞきこみます。
「そんなにおどろかなくてもいいよ。何もしないから」
「ホントに? 何も……しない?」
何もしないという言葉を聞いて、ようやく私は声を出すことができたのです。
「ボクの名前はね、むうまっていうんだ。みらくちゃんの味方だよ」
味方と聞いて、ちょっと安心しました。
暗さに目がなれてきたせいもあって、むうまのことをじっくり見れるようになってきます。
大きさは両手でつつみこめるくらい。
コウモリのような羽根をパタパタさせて、黒い毛におおわれた体が宙に浮いています。
ぱっちりとしたお目目がかわいらしくて、思わず頭をなでてあげたくなってしまいました。
「いいことってなに? 私、今、ぜんぜん眠れなくて困ってるの」
「それはね、理由があるんだ」
理由?
でもそれがわかれば眠れるかもしれません。
「みらくちゃんは、明日の遠足のこと考えてるんだよね?」
「うん」
パパやママとじゃなくて、友だちと行くアニマルパーク。
ろこちゃんといっしょに、ヤギをなでてみたい。
こるちゃんとニンジンをウサギにあげてみたい。
あいちゃんにおさるのボスを教えてあげたい。
その時みんながどんな顔をするのか、楽しみで仕方がないのです。
するとむうまは、にやにやする私の顔をながめながら言いました。
「ほら、頭の中がお楽しみでいっぱいになった」
そうです、きっとこれなのです。
お楽しみが頭の中でいっぱいにふくらんで、眠れなくなってしまっているのです。
「だったらどうすればいいの? 楽しいことがどんどんあふれちゃって消えてくれないの」
「あふれるくらいのお楽しみは、貯金しちゃえばいいんだよ」
「貯金?」
「そう、お楽しみ貯金」
へえ、と思います。
お楽しみを貯金するなんて、なんだかふしぎなことなのです。
「お楽しみを貯金すると、どうなるの?」
「頭がすっきりして、ぐっすり眠れるよ」
それはすばらしい。
でも……ちょっとだけ気になることがありました。
「貯金したお楽しみは? どうなっちゃうの?」
「ボクが預かっててあげる」
それなら安心です。
まるでお金の貯金のようなのです。
お金の場合は、貯金しているだけで少しずつふえていくってパパとママが言っていました。
「じゃあ、貯金している間、お楽しみはふえていくんだよね?」
すると、むうまは目をふせました。
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