同窓会
2010-07-02


『博と孝へ。元気? 今夜はどう?』
 高校の同級生だった稔から、孝と俺宛に携帯メールが届く。
『OK。博は?』
 すぐに孝から返事が来た。二人が乗り気なら俺も参加しなくてはなるまい。
『大丈夫。じゃあ二十四時からでいい? 場所は稔が決めてくれ』
 俺は稔と孝にメールを打つ。
『了解。いい場所選ぶから楽しみにしとけよ』と稔。
『OK。頼んだぞ、稔』と孝。
 さあ、今夜は久しぶりの同窓会だ。参加者は稔と孝と俺の三人。妻や子供達を早く寝かさないといけない。

 二○一五年。テレビは壁掛けタイプが主流となった。地デジの利用は伸び悩み、ほとんどの人がネットでテレビを見る時代。ネット接続会社は、制作会社が作成した番組を提供するだけにとどまらず、新たなコンテンツやサービスを次々と開発していた。
 そんな中、登場したのが月影ネットの「同窓会」というサービスだ。世界のどこかの窓から撮影された映像をただ流すだけのサービスだが、静かなブームを呼んでいる。壁掛けテレビで見るその映像はまさにそこに窓があるかのような錯覚を覚え、その体験を複数の人々で共有できることから「同窓会」と呼ばれている。「パリのカフェ」、「長距離鉄道」、「高層ビルの夜景」などが人気で、同じ景色を眺めている人達同士でチャットやツイッターを楽しむのが流行となっている。
 そう、俺達三人も、この「同窓会」サービスを楽しんでいるのだった。

「よし、みんな寝たな……」
 二十四時前になると、妻も子供もみんな寝てしまった。  俺は壁掛けテレビを付けると、チャンネルを月影ネットに合わせる。そして同時にパソコンも起動して、いつものチャットに入った。稔と孝はすでにチャットに参加していて俺を待っていた。
『孝:おい、博。遅いぞ』
『博:悪い。稔、今日はどこにするんだ?』
『稔:今日はな、桜ヶ丘女学院テニス部だぜ。有料チャンネルNo.315でよろしく』
 「同窓会」サービスはそのほとんどが無料だが、一部のコンテンツは有料となっている。俺たちがいつも見ている「女子校テニス部」のコーナーは、二時間百円のサービスだ。
 俺は早速、テレビを月影ネット有料No.315に合わせる。有料についての確認が表示され、俺はそれを了承した。すると、女子高生がテニスをしている風景が、窓から見ているように映し出された。俺達は酒を飲みながら、どの娘がかわいいだのとチャットを楽しむのだ。
『稔:おっ、練習試合が始まるぞ』
『孝:本当だ。ポニーテールと眼鏡っ子の対決だ』
『博:じゃあ、賭けようぜ。俺はポニーテール』
『稔:なんだよ、ポーテールの方が強そうじゃんかよ』
『孝:俺、眼鏡っ子』
『博:はははは。それにしても俺達ってやってることが高校時代と変わんねえな』
『稔:みんな、おっさんになっちまったけどな』
 そんな風にわいわいやっていると、三人でバカをやっていた高校の時を思い出す。それが俺達の密かな楽しみだった。


 そんなある日、月影ネットから三人にメールが届いた。
『平素から弊社の同窓会の有料サービス「女子校テニス部」をご利用いただきありがとうございます。そのお礼といたしまして、今週末土曜日の二十四時から一時間限定の特別メニューをNo.794にて無料で提供したいと思います。どうぞこの機会を逃さずにお楽しみ下さい』
 すぐに稔から携帯メールが来た。
『おい、博と孝。メール見たかよ』
『見た見た。週末が楽しみだな』と孝。
『じゃあ、土曜は二十四時から同窓会な』
 俺もメールで返事をした。

「よし、みんな寝たな……」
 いつものように家族の就寝を確認して、俺はテレビを付ける。今日は月影ネットから特別メニューが提供される日だ。チャットからも稔と孝の興奮が伝わってくる。
『稔:楽しみだな』
『孝:どこのテニス部なんだろう』
『博:さあ。でも特別メニューなんだから期待できそうだぞ』

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