秋の空室
2015-11-07


それは確か、五年前の土砂崩れの際に流された温泉宿の名前だ。宿の主人をはじめとして宿泊客や従業員も犠牲になったとニュースで見たことがある。そのうちの何人かはまだ見つかっていないという話だった。
「宿の主人のおじいさん、今も犠牲者を少なくしようと頑張ってるんだな……」
 誰も泊めていなかったのは、そういうことだったのだ。
 秋のあの日の空室。その理由に俺は深く胸を打たれる。
 ――ありがとう、おじいさん。
 心の中でおじいさんの冥福を祈ると、俺は自分の車を目指して歩き始めた。



共幻文庫 短編小説コンテスト 第7回「秋の空」投稿作品

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