2021-08-25
県立向葉高校ってとこに通ってる高二の女子高生なんだけど、二ヶ月くらい前に面白いものを見つけたんだ。
それはヤマモというボカロPの動画チャンネル。
アップされてる曲はまだ十曲くらいで、歌詞がちょっと古臭いんだけど曲調がアップテンポで歌いやすい。そして妙に頭に残るんだよね、不思議なんだけど。
特に気に入っているが『夏にあらわる少女』。
いやいや、タイトルからして古臭いよね。
でもね、気がつくとサビのところを口ずさんでる。
『夏になれば、君がひょっこり顔を出す〓』
これって他人に聞かれたら恥ずかしくない?
でもやっぱり、気がつくと口から出ちゃってる。
私の感性がおかしいのかな? それとも実は隠れた名曲だったりする?
それを調べてみたくなって、私はこっそりクラスで流してみることにしたんだ。
今ね、クラスでは学園祭の準備の真っ盛り。
一ヶ月後の七月初旬の開催を目指して、有志が放課後に残ってコツコツと装飾を造ってる。
その時にね、BGMとしてさりげなく流してみるの。
ヤマモの曲ばかりにしちゃうとファンだって疑われちゃうから、それはやめておく。他のボカロPの曲も混ぜて、ヤマモ率は二十パーセントくらいにしておくの。もちろん他のボカロPの曲は、有名ではない当たり障りのないものを選んでおいた。
そして私はこっそり作戦を実行する。
それがきっかけで大変なことが起こるとは知らずに……
第三話 火がついた少女
私の名前は南田朱莉(みなみだ あかり)。県立向葉高校の二年生。
今日は学校ですごいことがあった。
だって運命の曲に出会っちゃったんだもん。
その曲は、放課後に学園祭の準備をしてた時に流れてきたんだ。
『夏になると、君がひょっこり顔を出す〓』
うわっ、ダサって思ったよ。最初はね。
でも不思議なの。何度もこのサビのフレーズを聴いていると、つい口ずさみたくなってくる。
きっとアップテンポな曲調が合ってるんだよ。歌詞も何気に覚えやすい。
だから私は、この曲を持ってきた子に尋ねてみたんだ。
「風香ちゃん、この曲、なんていうの?」
私が声を掛けたのは南野風香っていうクラスメート。
吹奏楽部で確かフルートを吹いてるって言ってたっけ。
すると彼女は一瞬ビクッとした後、必死に冷静さを保とうとしながら私を振り返った。
「え、えっと、い、今私のスマホから流れているこの曲……のこと?」
「そうだけど? 他に曲なんて流れてないじゃん」
しばらく机の上で音楽を奏でるスマホを見つめていた彼女は、もじもじしながら打ち明けたんだ。
「えっとね、この曲ね、『夏にあらわる少女』っていうの。ヤマモっていうボカロPの」
うわっ、ダッサって思ったよ。今日二回目。
夏にあらわるだよ、あらわる。
でもなんかこの歌詞にぴったりの曲名だと思ったんだ。
「ねえ、朱莉ちゃん? もしかしてこの曲、気に入っちゃった?」
「えっ? い、いや……」
突然、質問を返されて不覚にも私は言葉を詰まらせる。
クラスのみんなの前でこんなダサい曲を「気に入った」なんて、そんなホントのこと口が裂けても言えそうにない。
何か、自分を正当化させる理由を見つけなくては……。
「ほ、ほら、私たちが小学生の頃の紅白で、少林辛子って演歌歌手が初目ニクの千木桜を歌ってたことがあったじゃない。それの逆バージョンのような感じがして、なんか面白いなって……」
ちゃんと理由になっていたかどうかは分からないけど、風香ちゃんは私の表情を伺いながらふーんと鼻を鳴らした。
「それって、どういうこと? 初目ニクが少林辛子の持ち歌を歌ってるような感じってこと?」
「そうそう、それ!」
少林辛子がどんな曲を歌ってたかなんて知らないけどね。
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